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質問<3663>2008/1/7 from=かもめ 「背理法について」

背理法の定義について教えてください。
証明じゃないんですけど
 例えば、ある母集団が正規分布に従っているかどうかを調べるため
に、その母集団が正規分布に従っていないというような帰無仮説を立てて、
その帰無仮説が起こりそうな確率をだし、そんな帰無仮説は起こるはずが
ないことを調べることによって、母集団が正規分布に従っていることを
調べる方法がありますが

それって背理法ですか?




背理法の定義に付いてはコチラを参照して下さい。

以下の質問に関してはYesともNoとも言いかねます。
何故なら、質問そのものが間違っているから、です。
正確には、

ある母集団が正規分布に従っていない事を調べるために、その母集団が正規分布に従っているというような帰無仮説を立てて、その帰無仮説の下で入手したデータが起こる確率を調べ、そんな帰無仮説下では起こりづらい確率であることを調べることによって、母集団がある確率で正規分布に従っていないことを調べる方法

ならありますし、それならYesなんですが、逆に

正規分布に従ってることを調べる方法

なんてのは存在しません。だからYesともNoとも言いようが無いです。

もう一度教科書を良く読んだ方がいいですね。



お便り2008/1/9
from=かもめ

回答ありがとうございます。
いゃ〜、恥ずかしいです。
自分、いちおう統計学の単位は取ったんですけど、先輩の過去問の問題と解き方を覚えて試験に臨んだ、数学が苦手な生物屋なんで。

確かに教科書を見ると、
「母集団は正規分布に従うこと」を帰無仮説にしてありました。

どんなに母集団を集めても正確に正規分布になることはありえないため、
帰無仮説が棄却されないことにより
「母集団が正規分布と異なるとはいえない」
という結論しか出せないということなのでしょうか?




数学が苦手な生物屋なんで。


全然構わないと思いますよ(大体、僕自身が数学大っ嫌いです・笑)。
少なくとも、いつも言ってますが統計学は数学ではないのです。
多分、純粋数学屋から言わせると結局ハッキリしたモノは何も分からない凄く気持ち悪い分野だと思われている筈です。高校範囲や大学の初年度辺りでは「確率・統計」とごっちゃにされてますが、確率論は数学ですが、統計学は得体の知れないモノです。恐らく、あらゆる応用数学(これも数学ではないんですが)の範疇では「計算だけはややこしい癖に、結局何も分からない」サイテーのジャンルですね(笑)。私見ですが(笑)。
もうちょっと個人的な意見を言わせてもらうと、「21世紀は統計学の時代だ」とか言ってますが、単にアメリカの大学の学部予算を勝ち取る為のスローガンをそのまま日本に持ってきてる辺り、どうかと思っています(笑)。

どんなに母集団を集めても正確に正規分布になることはありえないため、
帰無仮説が棄却されないことにより
「母集団が正規分布と異なるとはいえない」
という結論しか出せないということなのでしょうか?


いや、そんなに難しく考える必要はありません。
生物専門だ、って事で分かりやすい例を挙げましょう。

一般に、背理法のポイントは次の二つです。

  1. 問題の範疇とされる分野(集合)を確定する。

  2. ブール代数的な範疇に問題を落とし込む。


この二つです。
ブール代数、ってのは概念的には真、と偽しか存在しない二元論を扱う数学の一分野ですね。もちろん亀田も良く分かってません(笑)。まあ、たまたまコンピュータ・プログラム勉強してる間に浅く知っただけ、です。
まあ、ブール代数、なんて言い方せんでも、単純に言うと背反する二つの命題をデッチ上げて「アチラを立てればコチラが立たず」と言うような状況に持ち込む事です。あるいは「両雄並び立たず」みたいな。

それはさておき、上の手順に従って次の事柄を考えてみます。

亀田は人類に所属している。

これが作業1番です。亀田が「どの集合に属してるのか?」まずはここで確定させます。多分人類の一員の筈です(笑)。
次に命題を考えてみます。

亀田は女性である。

さて、亀田が男性である事を証明するには「女性じゃない」事を証明すれば良い。これが綺麗な背理法で、数学の(少なくとも試験範囲では)良く出るパターンですね。
ここで上のような試験で良く出る典型的なケースを考えてみると、そもそも選択肢が2つしかない。ある集合(この場合は人類で)「女性でなければ」男性しかあり得ないワケです。
最近の生物学では雌雄の決定、と言うか定義は専門的にはかなり難しいらしいんですが、まあ、単純、かつ古典的な文脈で見てみます。以下のような疑問を持つ人もいるでしょうしね。


いや、待てよ?じゃあ、こう言う例↓



はどうなるんだ?


しかしながらそもそもIKKOは人類じゃない(謎)。最初に決めた「人類と言う集合」に属してないワケです。それどころか生物なのかも疑わしい。多分(謎)。

さて、もう一つ視点を大きくしてみます。今の対立構造、




命題A



命題B

IKKOは人類の一員である。

←→

IKKOは人類以外の何物かである。

を考えてみます(この場合、対象とする集合は「あらゆる生物」とします)。
命題A「IKKOは人類の一員である」が否定されたとして、命題Bは確かに正しい。が、一方、「だからと言って何かの種族である」と特定できるのか?と言うと出来ませんよね。言える事は「人類以外の何かだろう」って事です。IKKOが人類じゃなかったから、即結論として

IKKOは猛禽類である


↓猛禽類の例:





とか

IKKOは爬虫類である


↓爬虫類の例:





とかましてや

実はIKKOは地球外生命体でした



↓地球外生命体の例:






とは言えません。「人類以外の何か」と言うのはそれ以上の評価もそれ以下の評価も導き出すワケではないのです。
まあ、確かに上に挙げた写真だけを見て「IKKOは××に似ている」とか勝手な感想を漏らす事は可能ですが(笑)、いずれにせよ、「人類じゃない」=「何かとは特定出来ない」って事です。生物学的に言うと実際IKKOをひっ捕まえて解剖してみない事には何も言えません(謎)。

と、冗談でロジックを説明してみましたが(笑)、実は「統計的仮説検定」は背理法のロジックを借りていますが、本質的に同じ問題が背後に潜んでいます。
まず、元々の例を借りると、第1の作法に従って

  • 適合度検定の流儀では対象を「確率分布と言う集合」とする。


のは、オーケーです。ただし、この「確率分布と言う集合」に含まれる要素の数が多すぎる。

  • ベータ分布

  • コーシー分布

  • カイ自乗分布

  • 指数分布

  • F分布

  • ガンマ分布

  • 対数正規分布

  • ロジスティック分布

  • 正規分布

  • 多変量正規分布

  • t分布

  • 一様分布

  • ワイブル分布

  • 二項分布

  • 幾何分布

  • 超幾何分布

  • 多項分布

  • 負の二項分布

  • ポアソン分布


ザーっとそこらに転がってる統計の教科書から引っ張り出して来ましたが、鬼のような数ですね(笑)。
それどころか、最悪な事に、基本的には「確率分布の定義」と言うのは次のようなモノです。

を満たすような

この定義を見る限り、こんなモンは作る気になればいくらでも作れます。お好みでしたら、上の条件を満たす関数をでっち上げて「かもめ分布」ってのを新しく作っても誰にも文句は言われません。文句を言うヤツのアタマがおかしい(笑)。
要するに、上の条件を満たすような関数ってのはそれこそ無数に存在するのです。

注:ここが統計の初学者がピンと来ない部分なんです。お定まりの定義紹介に始まっていきなり「正規分布だけが統計学で唯一存在する」確率分布のような扱いになります。生物学でいきなり「人間だけが唯一存在する生物」的な導入になったら、生徒側は十中八九とまどう筈です。「犬とか猫はどこへ行ったんだ?」と。
しかし、この「どんな確率分布だろうと定義を満たす限り無数に存在するんだ」と認識を持つことで適合度検定に対しては多少は見通しが良くなるでしょう。

さて、背理法のロジックを使うと次の状態を設定できます。




命題A



命題B

ある分布Pは正規分布である。

←→

分布Pは



  • ベータ分布

  • コーシー分布

  • カイ自乗分布

  • 指数分布

  • F分布

  • ガンマ分布

  • 対数正規分布

  • ロジスティック分布

  • 多変量正規分布

  • t分布

  • 一様分布

  • ワイブル分布

  • 二項分布

  • 幾何分布

  • 超幾何分布

  • 多項分布

  • 負の二項分布

  • ポアソン分布

  • それ以外の確率分布


のうちのどれか

この状態では「正規分布でない」事を証明する事は(どんな形であれ)可能です。
では、命題Aを否定して、結論として反対のカテゴリー(命題B)が正しい場合はどうか?と言うと特定の分布を「正しい」と指すことは不可能です。ましてや「正規分布でない」事の証明(命題Aの否定)に失敗した場合では結局「確率分布と言う集合」が残るだけで、やっぱり何も言えない事に気づくでしょう。

注:先ほどの例から言うと、「IKKOは人類ではない」(命題Aの否定)と言う証明に失敗したとすれば、では「IKKOは人類か?」と言われるとそれも分からなくなるのです(命題Bが否定されたワケではない事に注意・笑!)。「ウソ!!!」って思うかもしれませんが、そうです(笑)。結局集合は「何らかの生物」に還元されてしまうので、背理法的ロジックの効力は無に帰します。意外に思われるかもしれませんが、背理法のロジックでは「かもめさんは人間ではない」事を証明する方が「かもめさんが人間である」事を証明するより簡単なんです。
ご自分が人間であるかどうか確証出来ますか(笑)?僕はとても不安です(笑)。しかしながら、かもめさんや僕が「人間である」のを証明するのは、実は数学の範疇ではなく「生物学上の定義」なんです。数学外の事柄なんです。
ちなみに、よくよく考えてみると「犬の定義」はある種「猫との差異(猫でない事)」によって定義されているのかもしれません。つまり、全ては「別のモノと違う事(別のモノではない事)」によって定義されてる、と考える事が出来るんです。「同種をまとめる分類」と言うのは「差異がないと」成り立たない。例えば、人間が人間である事を説明する為には「猿との差異(猿ではない事)」を考える、とか。なかなか「それ自体でそれを説明する(再帰的定義)」と言うのは実際は難しいです。
この辺の「万物の差異による説明の体系(システム)」に付いて言及した昔流行った哲学の一分野が構造主義と言われるモノです。

さて、もう大体お分かりだとは思いますが、「正規分布である事を証明するには」例えば上の順序で言うと、まずは「ベータ分布ではない」事から証明しないといけません。





命題A



命題B

ある分布Pはベータ分布である。

←→

分布Pは



  • コーシー分布

  • カイ自乗分布

  • 指数分布

  • F分布

  • ガンマ分布

  • 対数正規分布

  • ロジスティック分布

  • 正規分布

  • 多変量正規分布

  • t分布

  • 一様分布

  • ワイブル分布

  • 二項分布

  • 幾何分布

  • 超幾何分布

  • 多項分布

  • 負の二項分布

  • ポアソン分布

  • それ以外の確率分布


のうちのどれか



命題Aを否定する事に成功すると、次はこうなりますよね。




命題A'



命題B

ある分布Pはベータ分布コーシー分布である。

←→

分布Pは



  • カイ自乗分布

  • 指数分布

  • F分布

  • ガンマ分布

  • 対数正規分布

  • ロジスティック分布

  • 正規分布

  • 多変量正規分布

  • t分布

  • 一様分布

  • ワイブル分布

  • 二項分布

  • 幾何分布

  • 超幾何分布

  • 多項分布

  • 負の二項分布

  • ポアソン分布

  • それ以外の確率分布


のうちのどれか



こうやって、しらみつぶしに順次否定していけば何とかなりそうですが、しかし、命題Bに含まれる確率分布は「無数にある」ワケです。従って、どこまでやって行っても「正規分布である」確証は永久に求まらないのです。

お分かりでしょうか?何故「ある特定の確率分布だ」と統計的仮説検定では明言できないのか、が。
実は教科書等で「正規分布で無いとは言えない(けどあるとも言えない)」と言った後、別検定に進むのは、「積極的な動機付け」じゃなくって「かなり消極的な動機付け」なんです。「結局何も分からないんだからやってみればあ?」と言う「クレヨンしんちゃん」的な行動なのです。決して「正規分布である確証が得られた」ワケではありません(ここを勘違いしている人が結構多いです)。

また、統計学でもこのテの「統計的仮説検定」の枠組みの弱さ、ってのは結構長い間指摘されています(単純に言うと、現代統計学の父、フィッシャー等の理論に関する批判です)。従って、実用面では、「考えられるだけの分布を取りあえず提案してみて」「その中でどれが一番マシと言えるのか?」に変わって来ていますね。現代はその過渡期にあたっているようです。→参考

以上です。

ど・ん・だ・け〜〜〜〜!!!!

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